ドナルド・ジャッド|Donald Judd

埼玉県立近代美術館
1999年1月23日(土)−3月22日(月)
滋賀県立近代美術館
1999年5月22(土)−7月11日(日)

企画協 力: ドナルド・ジャッド・エステイト/ジャッド財団
協力:日本航空 名港海運
出品点数: 21点

■開催趣旨■
20世紀を代表する芸術家のひとりである、ドナルド・ジャッド(アメリカ、1928-94)の個展を開催します。コロンビア大学(哲学)、アート・ステューデンツ・リーグ(絵画)に学び、1950年代に画家として活動を始めたジャッドは、コロンビア大学大学院(美術史)に再入学し、50年代末から美術批評を執筆するようになります。批評活動は絵画制作と深く関連し、60年頃にはジャクソン・ポロックやバーネット・ニューマンからの影響を独自に展開させ、湾曲する線による「ライン・ペインティング」を制作するようになります。続いて、画面に凹凸を施したレリーフ作品や画面に物体を組み込む作品を経て三次元の作品へと移行し、60年代中頃には、壁に設置される立体作品とも言うべき「スタック(=積み重ね)」のような特異なスタイルに到達します。
金属やプレキシグラス等の工業素材を用いて制作されるジャッドの作品は、物語やメッセージを有していないこと、単純な幾何学形態を採用していること、芸術家の手作業を全く感じさせないことなどから、ロバート・モリス、カール・アンドレ、ダン・フレイヴィンらの作品とともに、1960年代の最も重要な美術動向である「ミニマル・アート(=「最小限の芸術」)」の代表的な作例と見なされるようになります。しかし、ジャッドの芸術はミニマル・アートという過去の動向で括れるものではなく、芸術作品とそを鑑賞する人間の知覚の働きについて、現在でもなお、本質的な問題を提起し続けています。
ドナルド・ジャッド・エステイトおよびジャッド財団の協力を得て開催される本展では、世界的に見てもこれまでほとんど紹介される機会のなかった1960年制作の「ライン・ペインテイング」を含む初期作品から、1991年制作の5点組の大型作品までを含む21点の作品によって、ジャッドのめざした世界を体験できる展示空間をつくりあげます。

■ドナルド・ジャッドを知っていますか?■

ドナルド・ジャッドは、20世紀を代表する芸術家のひとりであり、現在でも無視することのできない大きな影響を与えた芸術家として高く評価されています。日本においては、美術や建築の分野でジャッドの名前がよく知られてはいるものの、まだジャッドの芸術が広く理解されているとは言えません。
その理由として、ジャッドの作品を本格的に紹介する機会が少ないことが挙げられます。また、ジャッドについて書かれた文献には、美術史や芸術論との関連でジャッドに触れたものが多く、作品そのものを論じた文献が少なく、概念的な捉え方が先行していました。
ジャッドの作品は確かに様々な議論を呼び起こす性質のものですが、理論のために作品が作られるのではありません。ジャッドは工業製品を用いて工場で作品を制作しましたが、形態、色彩、素材、配置などは慎重な検討の上で決定していました。素材や色を変えて同じタイプの作品を30年近くも継続して制作していたことに典型的に示されるように、ジャッドは、あくまでも「見る」ことにこだわって制作を続けたのです。ジャッド自身は、「私が望んでいるのは、私のしたことを“見る”ことができることだ」と述べています。

写真:5 x 7 Studio

写真:5 x 7 Studi

■ジャッドの作品は何を意味しているのですか?■

一見したところ、何の変哲もない箱が並べられているように見えるジャッドの作品から、何らかの意味や物語やメッセージを読み取ることはできません。ジャッドの作品は、何らかの具体的な内容を伝えるために制作されているわけではないのです。作品と向き合い、その形態を、色彩を、配置を、空間を、自分の視覚と身体を総動員して受けとめること、それがこのような作品を鑑賞する際に重要なことなのです。
日常生活で体験する様々なものの見方や空間の把握の仕方を、純粋な形に抽出し、その本質を経験するために作られた仕掛けがジャッドの作品なのだ、と考えることもできます。この仕掛けをはらんだジャッドの作品を見ることにより、鑑賞者は、形や色や空間に対する感覚が研ぎすまされていくのを感じるかもしれません。そして、その研ぎすまされた感覚によって現実の世界を見るとき、世界の見え方が変わってくる、という新鮮な体験をするかもしれません。
以下では、今回の出品作品をふまえて、ジャッドの芸術の展開を簡単に紹介します。
*下記の分類は説明のための便宜的なものであり、展示構成を示すものではありません。

【初期の絵画作品】
ジャッドの芸術家としての出発は、絵画でした。ジャッドは1950年代のアメリカで主流となっていた抽象表現主義の絵画、特にジャクソン・ポロックの絵画とバーネット・ニューマンの絵画から大きな影響を受け、イリュージョン(幻影)を排除した絵画をめざしていました。例えば、1960年制作の絵画では、湾曲する線は絵具を盛り上げて描かれており、描かれた線がイリュージョンを生むことをジャッドが慎重に避けようとしたことがうかがえます。本展では、遺族の協力により、ジャッドの存命中はほとんど展示される機会のなかった1960-61年の絵画作品5点を出品することが可能となりました。ジャッドのこの時期の絵画が展示されるのは世界的に見ても極めて貴重な機会であり、この展覧会のひとつのみどころと言えます。

【三次元の作品へ】
ジャッドは、絵画においてはイリュージョンを完全に排除することができないことから、画面に凹凸を施したり画面に既存のものを組み込む作品を制作し始めます。例えば、本展にも出品される1961年制作のレリーフ(ニューヨーク近代美術館蔵)では、画面の中央にパンを焼く時に使用されるアルミの型が埋め込まれ、画面の中に現実の空間が生じています。別のタイプのレリーフとして注目されるのは、1960年代前半に試みられた、画面の上部と下部が手前に迫り出してくる作品です(本展では1984年制作作品を出品)。この作品は、壁に垂直な面を持つことによって現実の空間と関わりを持つことになります。こうして、立体作品と共通する特質を有するレリーフ的な作品を経て、ジャッドは1962-63年にかけて床に置かれる作品の制作を始めます。本展では、60年代のコンセプトにつながる後年の作品も含め、レリーフ作品3点と床に置かれる作品3点を展示し、ジャッドが絵画から三次元の作品へと展開した頃の意識を探ります。

【典型的な作風の確立】
ジャッドの典型的な作風は、1964-65年頃に確立します。「スタック(=積み重ね)」と呼ばれるタイプの作品では、抽出のような同じ形の10個の直方体が、壁から突き出した格好で設置されます。ユニットとユニットの間隔は、ひとつのユニットの高さと同じ間隔になるように決められています。このスタイルは、1965年頃にほぼ確立されましたが、ジャッドは素材や色彩を変えて、数多くの作品を制作しています。例えば、今回出品される1989年制作の作品では、正面と側面には電気的な処理よって青に彩色されたアルミニウムが用いられていますが、上部と下部には透明なプレキシグラスが使われており、内部の空間が透けて見えるようになっています。本展では、「スタック」を3点、同様にジャッドの典型的な作風である「プログレッション(=漸進)」と呼ばれるタイプを4点展示します。

写真:5 x 7 Studio

写真:5 x 7 Studio

写真:5 x 7 Studio

【大型作品への挑戦】
ジャッドは、1994年に他界するまで、新しい素材の利用や色彩の積極的な活用を含め、常に新しい作品に取り組んでいまた。なかでも、1970年頃より始められた大型作品や会場の空間にあわせた作品の制作は、現代美術作品の恒久的な展示を行うチナティ財団(テキサス州マーファ)における活動へと発展し、ジャッドの主要な関心のひとつとなりました。例えば、1989年に開催されたバーデン・バーデン美術館における個展では、展示空間にあわせて12点の新作を発表しました(本展では2点を選んで出品します)。また、晩年の1991年に制作したアルミの5点組の大型作品は、チナティ財団に恒久的に展示されているアルミの作品100点をさらに発展させた作品と思われます。ジャッドが亡くなった現在から見ると、この作品は、ジャッドの芸術の魅力を凝縮した形で実現した代表的な作品と捉えることもできます。

「無題」1991年 Mill aluminum, 150 x 150 x 150 cm, 5 units copy right: Judd Estate photo: Boris Becker, Cologne

■「ドナルド・ジャッド 1960-1991」はどんな展覧会なのですか?■

日本でジャッドの本格的な展覧会を開催することを検討し始めた頃、ジャッドが他界しました(1994年2月12日)。この年から遺族(ドナルド・ジャッド・エステイト / ジャッド財団)との交渉を始め、1997年2月に展覧会の開催と作品の借用について合意が得られ、以後、出品交渉を進め現在に至っています。最終的には、遺族の好意により、絵画を含む貴重な初期作品、代表的な立体作品、そして、晩年の大型作品まで、計13点の出品が許可されました。また、展覧会構成上不可欠の作品3点をニューヨーク近代美術館ほか海外の所蔵先から借用し、これに日本国内の所蔵作品5点をあわせ、出品作品21点が決定されました。世界的に見てもほとんど紹介される機会のなかった、ジャッドの出発点を示す1960年制作の「ライン・ペインティング」から、晩年の代表作といえる1991年制作のアルミの5点組の大型作品までを含む、本格的なジャッドの展覧会「ドナルド・ジャッド 1960-1991」。ジャッドを知らない人にとってはもちろんのこと、すでに知っている人にとっても、ジャッドの芸術を体験する絶好の機会となることでしょう。

  
■「建築」ドナルド・ジャッド著 日本語版の案内(サイト
■1999年ギャラリーヤマグチでの個展案内(サイト
■伊丹市立美術館 版画展、2001年の展覧会(サイト
■埼玉県立近代美術館、滋賀県立近代美術館、1999年の展覧会(サイト
■2004年ギャラリーヤマグチでの「家具、ドローイング」展(サイト
■チィナティ財団のホーム頁へ Chinati Foundation, Marfa, Texas(サイト