展覧会名:BOOK ART 2010 Japan-Korea
サブタイトル:現代アートの珠玉の実験 ー見る者に開かれる本のかたちでー

2010 年9 月4 日( 土) ー25 日( 土)
オープニングパーティー:9/4( 土) 16:00〜

出品作家
福嶋敬恭 坪田政彦 長岡国人 芝高康造 日下部一司 川端嘉人 村井啓乗  塚本悦雄 稲葉高志 大西伸明 田中朝子 野原健司 稲垣由紀子 Song, Seong-Jae Yim, Young-Kil Kim, Sung-Bok Chung, Mi-Ok Chung, Shin-Young Lim, Soo Sik Kim, Sung Yong Han, Seok Hyun Ohm, Jung Ho Jeon, Sang Mi Young-Ju Choi



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 美術は、肖像や墓がそうであるように、この世から失われる大切なものを絵画、彫刻、建築と いう堅牢な形式で残す。ただ忘れがちなのは、繊細な「本」という美術の形式があるということだ。今では情報伝達のみに役割を集中している本を、ここに再び「美術」としてとらえ直すこと は、本を活字以前のより希少な物に戻すことであり、同時に現代において本の存続を問う試みでもある。情報としての本は、電子書籍のように、物としては消えていく運命にあるが、本が物として残っていくとしたら、オーラを放つ美術品となるしかない。無用となった紙片の片隅や裏に気ままに描かれるイメージがみずみずしさに満ちているという経験はしばしばある。それらはポートフォリオや本として綴られない限り残ることはない。本にすることは、気ままに描くことと後に残すことをしなやかに両立させる。しかし、印刷技術の発達とともに、本は凝縮した情報へと変容し、手で描くことから切り離されがちになった。そして 、挿絵や装丁という美術ジャンルが独立していった。このとき、本と実験的なアートとの関係は 少し希薄になったのかも知れない。版画家と装丁のデザイナーが行ってきた本の実験に、それ以外の現代アーティストが加わり、今アートとしての本をつくることこそ、本へのレクイエムであるとともに、昨今の情報化したり劇場化したりする現代アートへ別の提言をする機会となろう。 そして、本を美術品とすることと、現代のアートを今一度美術品という物に回帰させることが、 見事にひとつの実験として重なっている。
 ブック=アートとは情報とデザインが未分化な混沌を生み出すことであり、視覚と触覚の未分化な体験を創造することである。さらにそれは、文字と情報のための机の上を感情のための開かれた混沌に変えるだろう。小さな本の世界は、現代美術に特有の、ジャーナリスティックな話題や広いギャラリー空間と疎遠である。今回の展示は、本を不似合いな現代美術の時空に放つ。壁への水平の視線を中心とした、社交的なギャラリー空間が、触覚を契機とした内省的な視覚のための机の集合体へと変容するだろう。ささやかな本だからこそ、大きなパラダイムのシフトを生むわけだ。そして、大きな見世物には決してならない本は、小さな宝石のようなものになるだろう。アートの「実験」が最もそぐわない「珠玉」になるなどと想起できただろうか。錬金術でもあるまいし。とすれば、ここではアーティストは錬金術師になるというわけだ。現存する世界最古の金属活字印刷の本を韓国・清州市の興徳寺で1377 年に出版された『直指』 [jikji](フランス国立図書館蔵)とする説がある。ドイツのグーテンベルクによる『42 行聖書』 (1452−1455)よりも78 年も前のことである。
 ブックアートは本を活字以前の視覚世界に戻す。それは、閉じられた世界が他者によって開かれ成立する皮膚感覚と視覚が共存する美的世界である。展示室は、情報のない閲覧室であり、壁に作品のないつむじ曲がりなギャラリーとなろう。そして、様々に異なるメディア、表現、文化の交流するサイトとなるだろう。
 紙や土や植物で建築を造り、軽量でポータブルな美術を季節に応じ作り飾ることに秀でた韓国と日本の美術家のなかでもとりわけ個性的で実験的な才能がブックアートに挑むこの展覧会は、情報や量に惑う現代美術にささやかでつむじ曲がりな、しかし、親密で鋭い刺激をもたらすであろう。
キュレーター :永草次郎 ( 美術評論家 帝塚山学院大学 教授)

主催: BOOK ART 2010 Japan-Korea 実行委員会 / 韓国ブックアート協会 / JINSUN GALLERY
キュレーター :永草次郎 ( 美術評論家 帝塚山学院大学 教授)
企画 :稲垣由紀子 / Korea Book Art Association, Director, Gallery Jin Sun
後援 :野村国際文化財団 / 韓国文化芸術委員会  協賛 :CLEAN BROTHERS / 紅梅町版画工房  協力: ギャラリーヤマグチ