沢居曜子| YOKO SAWAI Line and Carbon – Work 1976-1979
2005.05.07(土)- 2005.05.28(土)
作品関連文献
展覧会の最後に再び傷つけられた表面が登場する。沢居曜子のドローイングはあらかじめケント紙に平行、等間隔にカッターナイフの切れ目を入れ、切れ目に向かって直角にコンテの線を引いて表面の傷を視覚化するという手法で制作される。同じスリットを用いながらも、およそ四半世紀を隔てたルーチョ・フォンタナとの比較は輿味深い。フォンタナの切り込みが自発的、刹那的でありながらも美的効果を意識しているのに対し、沢居の切り込みは計画的、反復的で絵画的な意識からはほど遠い。間隔と長さを定めて画面に切り込みを入れる行為はあらかじめ定められたルールの機械的な実施であり、ソル・ルウィットのドローイングを連想させる。絵画やイメージが無前提に存在するという幸福な認識が失われた70年代後半に制作を始めた沢居にとって、インスピレーションではなくルールが、行為ではなく痕跡が最初の導き手になったのではなかろうか。
「痕跡──戦後美術における身体と思考」図録 p.277 2004.11.9-12.19京都国立近代美術館 2005.1.12-2.27東京国立近代美術館