97年のギャラリーヤマグチの展覧会での作品の延長線上の作品「Breath-呼吸」のシリーズを展示している。油彩は10点から成り、各々の色彩は４年前のロンドン滞在の彼の皮膚感覚から生まれた色である。99年に彼の住まいである京都の空気の中でラインはその上にひかれた。その微妙な色彩とラインは作家個人の身体の状態、精神の状態をありのままに表現し、静かではあるが、この作家の美に対する多く考察が垣間見られる。それは、ペインティングの本質をも露にしている。あくまでも人間の創造の世界である芸術は人間としての基盤（断じて気を衒った時代を追った表層であってはいけない）がそこになければならない。ひいて言えば、その基盤が、この小さな画布の一個人の表現が、人間「社会」と言う大きな次元での貴重な認識を示すものにもなり得る。光りを感じ、空気を感じ、時間を感じ、また、矩形の画布が矩形ではなく見える人間の視覚の問題にまで認識を遡らせる。そして作家の手から一旦離れた作品は第三者の観る人達の世界に入り込んで行く。その状況が生まれるやいなや、観る立場の人達の世界の洞察力が問題となる。混乱は対敵である。いつも自分を忘れてはいけない。作品を制作した作家と同様に。常に混沌とした社会としか思えない人間の世界が、立ち止まり無垢な世界に入り込む作業によって、新たな本質が浮かび上がってくるはずです。